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受賞結果

第21回長岡インディーズムービーコンペティション 受賞結果

8月18日(日)10時00分よりアオーレシアターにて第21回長岡インディーズムービーコンペティションの最終選考が行われました。応募・エントリーのあった82作品の内第一次審査を通過した10作品より井上朗子(映像作家)を審査委員長とする6名により厳正な審査を行い賞を決定いたしました。

グランプリ

・ 愛をたむけるよ  2019年  監督:団塚唯我(21才、東京都)

準グランプリ

・ エレファントソング  2018年  監督:渡邉高章 (42才、神奈川県)
・ いっちょらい  2018年  監督:片山享 (38才、東京都)

審査員特別賞

・ 宮田バスターズ(株) 2019年  監督: 坂田敦哉 (20才、大阪府)

監督賞

・ 次は何に生まれましょうか  2019年  監督:野本梢 (32才、埼玉県)
・ 名操縦士  2018年  監督:片山享 (38才、東京都)

※残念ながら受賞にはいたりませんでしたがペールブルーがかさなる 2019年 監督:田中麻子(26才、神奈川県)、ホモソーシャルダンス 2019年 監督:東海林毅(44才、東京都)、夏の夜の花 2018年 監督:高橋伸彰(36才)、止まるな 2018年 監督:加藤大志(36才、東京都)の4作品も第1次審査を通過しております。

※9月13日(土)9時30分よりの開会式の中で「名操縦士」の上映を行います。
※9月16日(月・祝)17時30分よりの長岡インディーズムービーフェスの中で「愛をたむけるよ」、「エレファントソング」、「いっちょらい」、「宮田バスターズ(株)」、「次は何に生まれましょうか」、「名操縦士」の上映を行います。尚、併せて授賞式も行います。

審査委員長:井上朗子(映像作家)  
審査員:永井美津子(にいがた国際映画祭 副実行委員長)、ビューラ・ヨールグ(長岡造形大学 教授)
関矢茂信(コミュニティシネマ長岡会長)、他2名

※第一次審査通過作品選定は8月18日(日)9時~10時にアオーレ長岡にて行いました。

審査委員長総評

82作品視聴し、今年は「愛をたむけるよ」(団塚唯我監督)に賭けたいと思いました。ストレートに作りたいという気持ちで作られた作品が多くあり、それはそれで強さもあったのですが、様々な映画を見て学んだ上で撮られた作品としては傑出していました。黒沢清のような分割画面、ヌーヴェルバーグのように二人いるシーンであえて一人しか映さない表現方法、カットを割らずフレームインフレームアウトでワンシーンを作る手腕。各シーンのカット構成が凝りすぎない工夫に満ちあふれていました。また、最終審査で改めて観て、星座を聞く伏線、ビーチボールの意味など新たに気づかされ、繰り返し観ても飽きないシナリオのはりめぐりに驚かされました。こんな不幸顔の女優よく見つけてきたなぁ、しかしそれは演技演出の力かもしれない。そしてすっかりお兄ちゃんのファンです。お金もないし、特にイケメンでもないけれど、グッとくるものがありました。プロ並みに洗練された美しいキャスト、そして時には名の知れた俳優が出演する作品もある中、心に残るのはこのキャスティングでした。部屋のセットに「雨月物語」を入れてくるいやらしさ、ママ友の関係のリアリティのなさ、子どもがいる女性の状況が今ひとつ描ききれていないこと、など気に入らない点もあります。しかしシネフィルでありながら、影響を受け過ぎず、自分の映画を作り出せていること、ラストシーンのそこはかとない愛らしさ、将来性も見込んでグランプリになるよう画策しました。
 一番素晴らしい見応えのある作品は「Danchi Woman」(杉本暁子監督)でした。出演している打越さんが、82作品中、最も親近感のある、心ひかれる存在でした。しかし、配給元からの出品で、完全版での受賞歴も多く、「インディーズムービー」として評価するのは難しいと、話し合いで最終に残すのはやめました。機会があれば多くの方に見ていただけるとうれしい作品です。
 片山亮監督「いっちょらい」「名操縦士」極めて異例のダブル受賞となりました。
「いっちょらい」は、一、二位に推す審査員が多く、個人的にも心動かされた作品です。ラスト、エキストラの出演者一人一人の動きにも緊張感がみなぎり、全応募作品の中で、最も心に残る名シーンでした。ハンドカメラ中心のラフな撮影、整音も雑なところは気にかかったのですが、鈴木清順監督の初期作品のような勢いがありました。「幸せって何やろな。福井にはないものかもしれん」というセリフは、福井の人が聞いたらどう思うだろうという話も出つつ、説得力、インパクトがありました。父親の介護シーンはどこかエロティックな雰囲気もあり圧倒されました。
「名操縦士」は、泣きや寂しさなど、演技のダイナミズムという点で最も優れた作品という印象です。役者が監督した作品としての魅力がありました。内容は、一度見ただけではちょっと分からない、短編では描ききれていないところもあったと思うのですが、実はこうではないかといろいろと憶測が飛び交う広がりはありました。
 片山監督はその後もさらに大きい作品を作られているようなので、個人的には、技術に使われすぎず、ブレずに、「いっちょらい」の勢い、得意分野、個性を大事に、映画的な思いを失わずに作り続けていってもらえたらうれしいです。
 「次は何に生まれましょうか」(野本梢監督)「エレファントソング」(渡邉高章監督)は、すでにグランプリ、準グランプリの受賞歴がある監督の作品。揺るぎない実力で予備審査からのしあがってきました。
 「次は何に生まれましょうか」主演の女優さんの表情の変化、顔の筋肉の動きが素晴らしく、個人的にはコメディに向いている気がし、日本を代表するコメディエンヌにもなり得るのではないかと思いました。主演女優が輝けるのは、やはり手堅い演出力、美術、メイク、衣装、他キャスティングの素晴らしさ、現場の雰囲気の作り方など裏方の強みが土台となっているのではないかと想像します。女性監督による女性を描いた作品は他にもレベルが高い作品はあったのですが、なかでもスキルが高く、演技力、演出力が合致し、多くの人を作品にハマらせる力が感じられました。私事ですが、現在三歳と一歳の子どもの育児に追われており、キレることはしょっちゅう、この作品の内容は身につまされるものがあります。ママ友の関係も、「愛をたむけるよ」よりはリアリティがあると思いましたが、映画に描かれている以前の赤ちゃんの時からの親子の時間の積み重ねが見えず、またポイントになっている「相談するところ」に行ったところで、現実にはなかなか難しいし、いい一歩にはならないことも多いかなと。主人公のお母さんの「苦労」を具体的にせず、想像させるところはうまい!と思いました。個人的には、野本監督の作品はいい意味で自主映画というほど尖っておらず、多くの人に受け入れられる力もあるので、商業ベースの中で、もまれながら活躍された方がいいんじゃないかなと勝手に思っています。優しさやけれんみに満ちあふれた演出力を劇場公開の映画で見たいです。
「エレファントソング」は映画表現の様々な点に置いて、確実にレベルの高い作品でした。花や銅像などの捨てショットの入れ方、主人公達の問題だけではなく、花を飾る人、夫の同僚など別の出演者の人生もさりげなく取り込むシナリオのあり方など。他の作品が、診察室や会社、学校などのセットに苦戦しているところ、自治体の協力を得たり、設定を工夫したりして、完璧にクリアしていました。ロケ地、美術をどうするかは、自主映画制作において常にぶち当たる大きな壁ですが、制作的に手抜きすることなく、画面のすみずみまで作品の世界が行き渡っていました。最終審査に参加してくださった方が、「親子、子育てをテーマに描いた作品が多いが、それは想像で描いているのか、それとも、自分の経験から描いているのか、だとしたら育児に追われた状況で映画製作できるのか」と鋭い感想を寄せてくださったのですが、そういう意味では、監督の覚悟と家族の理解の上で成立した奇跡的な作品といえます。個人的に、男女の恋愛よりは、親子愛の方が確実に実感しやすいと常々思っています。作品においても親子愛を描いたものは当然多いのですが、例えば、子どもを愛しながらも、一人の時間を持とうとするところなど、他の作品にはない強いリアリティを感じました。ドキュメンタリーも含め、社会的な問題を描いた作品もいくつかあったのですが、正面からの社会的な作品ではなく、あくまで地に着いた個人的なところから描かれ、ギリギリなんとかやっているというところはどんな状況にある人にも共通の何かを与えうる作品となっていると思います。
「宮田バスターズ㈱」は、他の審査員も強く推し、既に多くの観客を楽しませている作品でもあるようなので、細かく講評することはありません。個人的なことですが、私も小規模の映像制作の会社で働いているので、会社の様子、客とのやり取り、以前は大きな機材を使っていたが、今は小さいもので済んでしまうことなど、実感をこめて笑ってしまいしました。職場が出てくる作品が多くある中、一人一人のキャラクターがコミカルにいかにもな感じで描けていました。最終審査の上映後、「あの車、作ったんだよね」と感嘆の声も上がり、手作り感溢れる自主映画の醍醐味を実感させてくれる作品でもありました。

 全作品を通してみて、今年は、カメラ女子が出てくる作品と、離婚して離れて暮らす親に会いにいく作品が多くあったな、という感想です。それぞれにレベルが高く、感動させられる作品もあったのですが、またか、という気持ちもあり、やはり、他の人には思いつかないプロットというのが重要かなと思いました。
 入賞に至らなかった作品も、それぞれによくできていて、心に残るところもそれぞれあり、予備審査のベストテンの10位は空白にしましたが、ほか全部という気持ちです。一作品一作品に込められた気持ち、確かに受け取りました。ご応募本当にありがとうございました。

審査委員長   井上朗子

皆様へ 
たくさんのご応募(82作品)誠にありがとうございました。今年は例年にも増して最終審査会に残る作品を選定することが困難な年でした。そして、感動を共有できる作品が賞に届いたように思われます。皆様のご応募本当にありがとうございました。(総評等はSNS等、映画祭会場に掲示いたします。)
次回のご応募をお待ちしております。ありがとうございました。

コミュニティシネマ長岡   会長 関矢 茂信