第13回長岡インディーズムービーコンペティション 審査評
「壁女」
*グランプリ
「壁女」監督 原田 裕司
・なんでもだめそうな女。しかも壁に張り付いた自分の写真を撮ることを趣味とする変な女。ただ、自分の写真をネットを通じて人に見てもらおうとしている。
そんな女を映画を通して肯定しているのがほっとさせられる。笑い者にしてコミカルに描くのではなく、冷静な視線でずっとカメラを通じて捉えられていく。
他の登場人物も、人として魅力的かどうかというと必ずしもそうではないが、そういった人々をそのままに、肯定的に描かれるのが気持ちいい。(東條)
・不思議な感じにさせる出だし。主役の女の子のキャラがズルいぐらいに面白い。登場人物の顔が面白い。それぞれ細かくキャラに合った顔つきをしている。主役の女の子、素材が面白いだけに所々狙ったポーズが勿体ない気がする。普通ぽいのに不思議な間を感じる。そう見せる見せ方は難しいはずだが上手い。人の何気ない可笑しさをよく観察している。セリフの細かい念の押し方が上手い。変に面白い。コンビニのガラスに張りつくところが笑ってしまった。ほんわかした終わり方がいい。その後の変な終わり方も更にいい。ただラストのために引っ張るのに途中、ドラマがもう一押しあるとよかった気がする。(五藤)
・インターネット世界に嵌まってしまい、リアルライフで困っているオタクの話は珍しくないのに、「壁女」は安定した映像技術とオリジナリティーを持つ話ができました。特にストーリーテリングは上手い:短い時間で比較的に複雑なストーリーを伝えることが出来ています。
時々ステレオタイプなキャラクターが気になったが、変わっている演出と主演者の魅力と強い印象に残っている絵の理由で評価が高い。「グランプリ」おめでとうございます!(ビューラ)
・小太りなダメ女というなかなか主人公になりにくいキャラクターを「壁女」として描く視点が面白い。壁に張り付くのが趣味という発想がいい。無表情だった主人公が話が進むにつれて表情が変わってくるのもいい。共演者もしっかりしており、特に友人役の女性は存在感がある。ラストも洒落ている。今の社会のどこにでもいるだろう「壁女」。下手すりゃ暗くなりそうな話を、ユーモアと優しさで切り取ったセンスは素晴らしい。(岡村)
・少し哀しみもある壁女。まっすぐ素直にでもタフでもある壁女。に共感しました。
(関矢)
準グランプリ
「記憶のひとしずく」監督 畑中 大輔
・お祖母さんを一番世話している未婚の娘。彼女だけお祖母さんに忘れられているという設定がいいなと思った。
印象的なシーンはお祖母さんに服を娘が着せるシーン。娘のいろいろな思いが想像させられた。
残念なのが、寝ているシーン。眠ってる人が化粧をしたままというのは、ちょっとドラマとは違う現実に引き戻されてしまいます。
人の気持ちの動きをしっかり捉え続けた作品。(東條)
・冒頭の衝撃が面白い。老父、老母どちらも味わいがある。痴呆という重いテーマをユーモラスに軽やかに見せて更に心に残るシーンにしているのが上手い。特にこの時期だからこそホット心が温まる。ただ、意外性が少しあってもよかったかも。家族の綻びが絆にかわるところ、映画館のくだりなど、いいシーンだと思う。ただ、ワリとすぐに収まってしまうのが勿体ない(尺の都合もあるだろうが)。(五藤)
・刺激させる映画館、社会の記憶をまもるシネマ: われわれ映画文化が好きな人間は気に入るメセージでしょう。あと、社会の基準にあわない人々に関して、認知症のお年寄りの話で必要な我慢や協力、感情移入を叙述する映像です。カメラワークや演出、ストーリーテリングを含めて非常によくできて、安心して凄く楽しんで視聴できます。「準グランプリ」おめでとうございます!(ビューラ)
・見終わった後、生きていくことや家族っていいなーとじんわり感じさせてくれる素晴らしい作品。ちゃんと伏線を張っており、脚本が本当によくできている。伊勢湾台風のエピソードがいい。出演者の演技も自然で文句なし。現代の高齢社会の側面を、温かい視点で描いた本当にいい映画だと思います。(岡村)
・映画と映画館が母と娘とをつなぐ話しに感動しました。昨年につづき名古屋発の映画が準グランプリに輝きました。人間を深く掘り下げて追求する映画作りは地方のほうが地に足をつけた取組みをしているように感じた作品でした。(関矢)
*審査員特別賞
「夢見る人形と星屑の旅を」監督 芳井 勇気
・女の子がかわいい。ファンタジーの世界が気持ちよく描かれていました。
特にCGの映像には苦労の跡が感じられます。(東條)
・出だしのカメラワークと構図が素敵。電話がなって女の子がとりに行って車イスと分かる流れが上手い。雪の中遊ぶ子供たちと車イスの女の子の対比がいい。フクロウのCG凄い。作りが既に一般の商業映画として成立している。低予算でこれをやっていたら凄い。画の美しさとファンタジックなストーリーが30分という長さを感じさせない。物語の先を期待させられる。ただ、起こり得ないことが、はじめから当たり前のように受け入れられてしまっているので、そこで気持ちが離れてしまうのが残念。惜しい。女の子が可愛くて魅力あるのが作品を引き立てている。車イスになった原因が伏線となってラストに絡んでくるともっとよかった。自力でジャングルジム上るのがよかった。細かいカットでも星空が見えていたり、雪の中から雪解けまで長期に撮影していたり丁寧に作られているのが伝わる。妖精?妖怪?の男たちがちょっと解りづらかったのが惜しい。脚本をもっと練ったらもっとよかったと思う。でもインディーズでこれを作ったとしたら凄い。(五藤)
・子供のファンタジー映像です。特に気に入ったのは耽美的な夜の雪のロケーションとそれの演出。CGもあちこちに使いましたが、繊細なイメージを壊さない様に丁寧な制作をしました。子供でも、大人でも不思議な白い夜の冒険、楽しめます。「審査員特別賞」おめでとうございます!(ビューラ)
・北国のどこかの街のおとぎ話。ストーリーに独自性があり、登場人物もいい。悪役2人は笑える。映像がとても美しく、冒頭のミミズクの場面はどうやって撮影したのだろうと、非常に感心しました。とにかく創意工夫あふれる作品で、子どもが見たら喜ぶのは間違いなし。ラストシーンは、おっさんの筆者は「うーん」と思ったが、とにかく単純に面白く、楽しめました。(岡村)
・見終わって観客として映画を見ていた自分に気づいた。北海道の自然もよかった。
(関矢)
*監督賞
「純子はご機嫌ななめ」 監督 谷口 雄一郎
・主人公の魅力はなんだろうか? スーパーモデルのような服が欲しくて奮闘する姿なのだろうか?
いろいろとコミカルな要素を加えながら工夫しているが、主人公の女の子の魅力がなかなか伝わりにくかった。
部屋の飾りなど美術はいろいろと魅力的でよかったです。(東條)
・何かを予感させる出だしがいい。ワイプを使うのは勇気がいるが上手く使っている。意表ついたナレーションが突然入るところが面白い。音楽SEの入れ所が上手い。カット毎の画の構図が上手い。田舎のロケーションが所々に挿し込まれる実景が綺麗。コメディをキチンとやろうとすると難しいが真っ向から挑戦する姿勢は勇気があると感じた。ただ、お父さんが頑張って芝居をしている姿に感銘を受ける反面、頑張っている感が痛々しく感じられる。見せ所の間がもう少し違うともっとよくなると思う。すごくいい話だがいいたいことを言うところが弱い気がしてもったいない。(五藤)
・色や平面構成やフォーカス/ピン暈けの視覚的な表現に関して非常に良くできたショートムービー。記憶に残る抒情的なショットが多い。残念ながら画像の見やすさを大分下げてしまう音響のクオリティー。あと、お父さんの表情などのコミカルな演出は全体のムードとかなりずれています。本当に必要か疑問なところです。それでも、魅力ある優しいストーリーとその結論と更に絵の美術が高いので、「監督賞」は相応しい。おめでとうございます!(ビューラ)
・成長時期の女児の心情を描いたほのぼのした作品で、好感が持てる。出演者やセットなど、撮影のためにかなり大がかりな取り組みをしていることがうかがえる。ただ、子どもらが出演していることを考慮しても、大人を含め演技が全般的にマンガ的なのが惜しい。(岡村)
・映画を見終えた時感動は少なかった。でも、とっても優しさを感じた。そして、優しい気持ちになった。(関矢)
*最終審査に残った他の作品
「父と登る」監督 岡元 雄作
・結婚前に娘と父が山を登りながら会話をするだけの中に、激しく気持ちの変化があるのは非常に面白いと思ったのだが、音が非常に聞きづらいのが残念。
山を登る後ろ姿で、風景がどんどんと切り開かれていく感じは、非常に魅力的だった。逆に、山を登る姿を前から捉えた時に、気持ちの変化が起きて風景的にも閉塞感があるのも面白いと思いました。山を登るというだけで一つの映画ができるんですね。(東條)
・タイトルからの引き画が上手い。気持ちが引き込まれる。ただその後の2人の歩きがちょっと弱いのが長回し調の狙いなら面白い。画が綺麗であるのに音が悪くセリフが立ってこないのは勿体なく残念。あと、本当にこれを1カットの長回しで見せたらもっと良かったかも。所々入る森の実景が情感を出していた。一本の道を歩く間にドラマを見せようというアイデアと難しいシチュエーションにチャレンジする姿勢は凄い。ノイズが多いのと、セリフが聞き取りづらいのが残念。音が良かったらもっと気持ちが入ったかも。個性あるので惜しい。役者が、もう少し客に感情移入させてくれるともっと良かったかも。惜しい。セリフが分からないのが残念だが画で引っ張る力強さがあった。(五藤)
・映像はマルチメディアです:絵と音とストーリーを相応しい技術で表現するものです。絵的なイマジネーションと撮影/編集技術とストーリの発展、どれにも失敗が多い作品です。(ビューラ)
・複雑な事情のある父と娘が登山をしながら分かりあうという話のようだが、録音技術の問題で、全編を通じてセリフが聞き取りにくく、心情の揺れが伝わってこない。娘役の女性は熱演だっただけに惜しい。(岡村)
・テーマはよかった。二人の会話が聞こえないのはどうしたことか。(関矢)
「ハワイアンドリーマー」監督 木場 明義
・オープニングのタイトルバックは非常に期待されたが、本編が始まると見る人にとってどうでもいい人がピンチになっているので映画を楽しめない。オープニング映像で気を引くのが逆効果になってしまっているのが残念。オープニングの映像で関心は彼女の事、なぜ彼女が死んだのかに向いてしまい、足に爆弾を仕掛けられたことはそんなに関心が向かなかった。(東條)
・興味をひく出だしがいい。出だしがいいだけにタイトル明けの公園が勿体ない。公園の位置関係と画がもう少しいい所だとさらに引き立ったのでは。でも、展開の意外性が面白い。アイデアが面白いのだが、30分緊張感を持たせるのがつらい。見ていてもっとハラハラする仕掛けをつくるとなおいいのでは。ダイハードのように勢いで引っ張るともっとハラハラして見れるかも。ハラハラさせる見せ方にもっと工夫があるといい。惜しい。重いテーマ性を持たせているのがいい。それだけにそれが緊張感につながるとなお良かったかも。この一見真面目そうな人々がクスリをやっているというのが解せないとリアリティが出ない気がする。(五藤)
・最初の面白いシチュエーションから最後のオチまでテンションを持ち、丁寧なストーリーテリングで見やすい作品です。音のミックス(MA)の方をもう少し頑張れば良いですが、爆弾のデザインとストーリの構成は気に入りました。(ビューラ)
・不安な感じにさせるオープニングがいい。サスペンス形式で話の展開は面白く、ひねりも効いていて十分楽しめた。ただ、途中間延びしており、主役の男性の演技に命がけの必死さが伝わってこない点が残念。(岡村)
・中村主水だったらどうするんだろうか?ハングマンならどうするんだろうか?(関矢)
「ももこ part2」監督 佐藤 健人
・はずかしいところもちゃんと見せたところはすごいと思いますし、出産というなかなか人が見れないものを見せたというところが面白いが、果たして作者の視点を通して出産を撮影した作品にまで昇華していない。(東條)
・会話や夫婦の距離感など日常の自然さが上手く出ていて上手い。ただちょっと生々しいところが気恥ずかしい。フェイクドキュメント風の冒頭の会話が気恥ずかしいのと、軽く見えてしまうのとで勿体ない。妊娠出産を自分たちのドキュメントにしようと考えるところはすごい。役者か役者を志す夫婦でもすごいと思うが、普通に暮らす夫婦だったらもっとすごい。どういう人たちなのか気になる。ただ、いろいろなこと、凄いところを撮っているのにさらりとしてしまっている分、感動が薄れてしまい勿体ない。さらりとしているのに肝のすわったこの女性に感服する。どういういきさつで撮影しようと考えたのか、背景が分かるとなお感情移入出来る。貴重な記録だと思う。ただ、映画かどうかと考えると難しい。ともかく、女性の芯の強さが伝わって来た。 (五藤)
・だれでもさまざまに経験しうる妊娠と出産のこと。このテーマで映像を制作するなら一般的な知識や体験より補足の情報やアングルが必要。そうでなければ公共の場での公開より自分のファミリーアルバムの一部と思った方が良い。(ビューラ)
・若い夫婦が初の出産を迎えるドキュメンタリー。2人のいい思い出の作品なんだろうと思います。(岡村)
・無事誕生した姿に涙が出た。よかった。(関矢)
「せば・す・ちゃん」監督 齋藤 新、齋藤さやか
・ストーリーがあってオチを見せるという映画。それはそれでいいかもしれないが、彼の彼女への思いを描く映画としてずっと見ていたのに、そのオチで全ていままでの思いが収束されてしまうのが残念。(東條)
・タイトルの出し方、さりげなく遊んでいていい。ロケーションの選び方が素敵だと思う。撮影して慣れるとどんどんよくなると思う。いらないカットが長いかも。短くていいカットまで長いので気持ちが離れてしまうところがあり勿体ない。ひたすら女性を思い見つめるしつこさが良く出ていていい。自由帳での交換日記というアイデアは素敵だと思う。更に使い方を練ると更によくなると思う。女性が都合よく何度も落としすぎ。それが意図的だとまだ展開がふくらみやすいのだけど。セリフを言わせずに伝えようとチャレンジする勇気がいい。アイデアとオチを盛り込みたくて入れ込んでいる感じがしてしますので、もう少し脚本を練り込んだほうがいい気がした。作り手の楽しい様子が表れているのがよかった。いいシーンになりそうなのに、オチのための展開になってしまっているので、見る側は見たお得感を感じられないのが残念。オチに驚きがあるとお得感が出ると思う。(五藤)
・だいたい言葉なしの絵と音のみで進む、ほとんどが小さい駅の1つのロケーションに限られ沢山の予想に反した変更がある物語り。メインモチーフの電車を使用してリズミカルな編集ができたが、ストーリーの発展は少し遅い。少なくとも余計な回想シーンを省けば、もっと面白くて見やすい映像になります。(ビューラ)
・主役の中年男性の生活感が乏しく、感情移入がしにくかった。出演者も無表情。もっと、中年男性の内面に踏み込んだ話にしてほしかった。(岡村)
・ハッピーなラストを期待しただけにがっかり。でも、長野ではインディーズのレベルはこんなに高いんだということを証明した作品。そして、自主映画の楽しさを観客に示した作品。(関矢)
「パンティの話」監督 三代川 たつ
・平凡な日常の一コマだし、非常に平凡な人だが、ちょっとずれててうまく生きていないビデオ店の店長と、田舎からでてきたばかりの女子大生。二人とも前向きに生きようとはしている。でも、だめな二人はなかなか前には進めないのだが、そんな二人がなんか一歩前に進んだ感じがする。それが素敵だなと思いました。(東條)
・セリフで遊ぶ楽しさが伝わってくる。が、もっとセリフが練られているとそれが更に伝わるかも。キャストはそれぞれ雰囲気がある人たちなのでそれがもっと生かされたら更によくなると思う。(五藤)
・変わっているキャラクターをコミカルなシチュエーションで演出した若者のストーリー。暢気で新鮮な表現ができたが、全体的にぐちゃぐちゃになった感じが少し残っています。(ビューラ)
・都会で暮らすさびしい男女の姿をのんびりした雰囲気でコミカルに描いている。好感は持てるが、パンティーを拾う以外の展開はなく、間延びした印象。それが狙いかもしれないが……。レンタルショップの店長役の男性は、いい味出していました。(岡村)
・空気感がよかった。登場人物たちが等身大で現在(いま)を表現していた。(関矢)
「空が色を変えた」監督 渡辺 聡美
・『お父さんのことを嫌いな人間といっしょになっても幸せになれない』と恋人に言う女。親子の確執について、梅酒のことなどもっといろいろとこだわって掘り下げてほしい。だが、何も話さなかった不器用な人間が、正直な言葉を生み出す瞬間は感動しました。(東條)
・冒頭、化学調味料を大量にふりかけるところ、何かあるのか興味を引く。1カットごとの間をもう少し整理すると気持ちが入りやすくなる気がする。セリフのない家族のやりとりに挑戦するのが面白い。ありがちな作品に見えて不思議な展開をする意外性が面白い。撮り慣れていくと面白い作品が出来るかもしれない。オーソドックスに頑張って作ろうとした姿勢がよく伝わってきて好感を持てる。脚本を学ぶとよくなると思う。もっと撮っていくといいと思う。(五藤)
・ドラマ形の映像。心理的な発展は少し簡単ですが、シンプルな渋い演出が気にいります。音の完成度が低く過ぎる。(ビューラ)
・2人暮らしの父と娘。娘が婚約者を家に連れてきて、父と娘の確執が露わになる。ただ、その確執の内容はよくある話だけに、描き方にもっと工夫がほし。娘役の女性は熱演。(岡村)
・テーマがよかった。そして、福岡での自主映画製作のレベルの高さを感じた。(関矢)
ゲスト審査員評
東條 政利 (映画監督) 五藤 利弘 (映画監督)
ビューラ ヨールグ (長岡造形大学 教授) 岡村 昌彦 (毎日新聞社 長岡支局長)
審査員
関矢 茂信(市民映画館をつくる会 事務局長)
2011.09.02 | 長岡アジア映画祭