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第17回長岡インディーズムービーコンペティション 受賞結果 総評

グランプリ

『洗濯機は僕らを回す』古新舜監督
『れすとえりあ』小崎基広監督

準グランプリ

『さよならファンタジー』木場明義監督
『多摩川サンセット』渡邉高章監督

審査員特別賞

『季節の午後』Kim Seojin、Jung Eun chae共同監督
『たむほりっく0』高嶋義明監督

観客賞

『福井の旅』木川剛志監督

監督賞

『チエコ クエスト』松本卓也監督

奨励賞

『ふたり、ふたつの再見』富田洋史監督
『人虫』出澤暁監督
『ノリコ』小林遼監督

その他 最終審査にすすんだ作品

『あかかがち』屍狂四郎監督
『仮面の少女』深井洋監督

 

審査委員長総評

•ラブストーリーが少ない。
ストレートに恋愛を描いた作品が非常に少なく、あったとしても、すれ違い、何となくそういう感じ、がほとんどでした。
グランプリに選ばれた「洗濯機は僕らを回す」は、そういった傾向の中では新鮮でした。誰かを求める気持ち、主人公二人の状況、心の動きが丁寧にコミカルに描かれてあり、一番に推す審査員は一名だったのですが、二番目に推す人が多く、受賞が決定しました。
細かいところですが、子どもたちのキャスティング、表情豊かな演出にも並々ならぬ才能を感じました。二人が転がり落ちる体当たりのダイナミックな映像は全出品作品中、最も力強いカットでした。

•モノローグが多い。
登場人物の心情を「心の声」の形で、言葉で説明してしまっている作品が多い中で、グランプリを受賞した「れすとえりあ」では堂々と長々と独り言を話していました。主人公ケンジ役の阿武勇輝さんの演技は、出品作100本の中で最も素晴らしく、常にテンション高く、独り言など難しい演技もこなしていました。監督と役者の信頼関係が相当に厚くないとこのような演出はできないと思います。
審査員の間では、勝手にこの映画を「ゆたぽん」と呼んでいましたが、主要な人物を最後まで出さない脚本の面白さ、映画そのものがまばたきするような黒みの入れ方、一曲にしぼった音楽の使い方など、刺激的な演出満載でした。

誰にでも楽しめる万人受けする映画と、強い個性を持った新しい映画と、1本の作品でどちらも両立させることはなかなか難しいと思います。昨年で言えば「ひとまずすすめ」が前者で、「風薫」が後者。今年は、「洗濯機は僕らを回す」が前者で、「れすとえりあ」が後者といえます。
グランプリをすっきり1本にしぼりたいという気持ちはあるのですが、これだ!と皆が納得できる作品は今年もなく、グランプリ2本としました。
「れすとえりあ」に関して言えば、長過ぎる、クローズアップが多過ぎ、もう少しいろんなアングルを考えてほしい等、真っ当な意見もあったのですが、映画表現に対するブレない強さを買いました。

•マンガの影響を受けている作品が多い。
準グランプリの「多摩川サンセット」もそういった感じじゃないかという意見もありましたが、個人的には、けんもち聡監督「いつものように」現代版と感じました。風景、雰囲気、なんにもしていない感じがなんともよく、世界観が統一されていました。
「お前は誰だ」というセリフは、まさに今生きている私たちひとりひとりに突きつけられた言葉のようで、確かに私たちは誰でもない、強いリアリティを感じました。

•ゲームの世界観に影響を受けた作品が多い
同じく準グランプリの「さよならファンタジー」もまさにそういう作品でしたが、タイトルどおり、妄想の世界をさらに乗り越えていました。
“今いる世界がつらいなら、別の世界で生きればいい”という非常に実践的なリアルなメッセージを与えられました。前向きになれる、励まされる作品です。
最後のシーンのカメラワークにも驚愕させられました。

「多摩川サンセット」を一番に推す人は多く、「さよならファンタジー」は評価する人が最も多い作品でした。いずれもグランプリでもいい状況でした。今年は、グランプリ、準グランプリ計4作品とも評価はほぼ拮抗していました。

•首都圏在住の監督の作品が多い。
首都圏在住の方の作品は、そつがなく、共通してどこか面白くない。首都圏に住むことを選択している人は、価値観が似通ってくるように感じます。
観客賞の「福井の旅」は、和歌山県在住の監督が福井で制作した珍しい作品でした。地方の自治体、団体、企業などからの助成を得て制作された作品はほかにもあったのですが、企画に遠慮してつまらなくなってしまっていることが多い中で、かなり自由に、監督の個性、人脈が生かされていました。
技術的にはちょっと甘い部分もあったのですが(特に音声)、キャスティングに関しては、演技が上手なプロより、味のある素人を選択したことが成功していました。出演者一人一人に親しみが感じられる作品でした。

•機材に使われている作品が多い。
特に、被写界深度が出せるカメラを使った作品が多かったのですが、大画面で見るとピン合わせの甘さが残念に感じられる作品が多くありました。クレーン、レール、ドローンを使用した作品もありましたが、作品にとって何が大切かむしろ損なわれている印象でした。
監督賞の「チエコクエスト」は、ほかの作品と一緒に見ると、いかに技術に使われていない作品かよく分かりました。オーソドクスなカメラワークで、演技、ストーリーをとらえることに集中でき、映画にとって何が大切かよくわきまえていました。
松本卓也監督2年連続で監督賞では芸がないとは思ったのですが、監督賞にはやはり松本監督こそふさわしいと考え、受賞が決まりました。

審査員特別賞の「季節の午後」は、唯一海外からの出品でした。
映像の素晴らしさ、間合いの取り方など非常に評価が高く、一番に推す審査員も二人いました。女子高生を主人公にした作品が数多くある中、「チエコクエスト」「ふたり、ふたつの再見」と並んで、最も美しく繊細に女の子を描いていました。ストーリーは描ききれていなかったのですが、一人の人間が魅力的に映し出されていれば、映画は映画として成立することを教えられる作品でした。

同じく審査員特別賞の「たむほりっく0」は、別の意味でそれぞれのキャラクターが魅力的な作品でした。高校生の時から25年後まで、同じ役者が演じ、明らかに似合わない学生服を着ているのも自主映画ならではのB級魂でした。
25年後の社会的には全然うまく行っていない感じ、それでも音楽の力で隕石を止めようとするすごいストーリー、本当に楽しそうに映画を作っている雰囲気が伝わってきました。愛すべき1本でした。

奨励賞の「ノリコ」は、賛否両論激しい問題作でした。
ジャン=ピエール&リュック•タルデンヌ監督の演出の明らかなパクリと思われましたが、最後まで飽きさせない勢いある演技でした。
引きこもっている人間より、引きこもっていない人間の方が厄介というところが面白く、説得力があり、しかしそんな状態でも人は生きていくという力強さがありました。

「ふたり、ふたつの再見」は非常に丁寧に撮られた作品でした。
映画づくりの映画というのは多少反則技にも思われたのですが、主人公二人の表情がみずみずしく、1カット1カット相当テイクを重ねている様子が伺えました。
ロケ地に撮らされている、ロケ地負けしている作品が多い中で、街の風景が美しく、作品にしっかりなじんでいました。

「人虫」はある意味では最も優れた作品で、内容も深く、考えさせられる作品でした。性の問題、社会経済の問題、生の問題、様々に組み込まれていました。
演技がうまい人と、不慣れだけれども味のある人を巧みに組み合わせた高度なキャスティング、ロケ地選びも最適でした。いいセリフが多く、繰り返し見れる作品でしたが、多少マンガ的、広告的な雰囲気も感じました。
映画講座やそのつながりで生み出される多くの作品は、多かれ少なかれ自由度が失われ、技術的には安定していても面白くなくなってしまっているのですが、この作品に関しては、作家のゆるぎない強い力を感じました。

最終選考に残った「仮面の少女」は、技術的にはそれほど高くはなかったのですが、ほかの作品にはない手作り感がありました。少女の繊細な感情を丁寧に描こうとする試みが感じられました。
「あかががち」は、このようなジャンルがあまりなかったので際立っていました。キャストもよく、衣装、美術もしっかりしていました。大画面で見ると、画質の悪さが少し気になりました。

今年は非常にレベルが高く、最終選考に残らなかった作品の中にも、印象に残る作品がたくさんありました。どの作品も撮りたくて撮っている、作っていることでいい方向に向かっていると感じ、うれしくなりました。
たくさんのご応募ありがとうございました。

9/23(水・祝)17:10〜授賞式での上映プログラム、各作品紹介を後日掲載します。