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第18回長岡インディーズムービーコンペティション 総評

受賞結果

第18回長岡インディーズムービーコンペティション 受賞結果

審査委員長総評 井上朗子

 本年度は非常にレベルが高く、どの作品もそれぞれに魅力的で、最後まで諦めずに制作されていると感じました。その中で、
・映画に対してどのように向き合っているか。
・言葉をどう生かすか。
が、個人的にはポイントになりました。言葉に関しては、もちろん音声や字幕が全くない、あるいは極めて少ない作品もあります。だからといって言葉が生かされていないわけではなく、その裏にあるテーマ、何をどう伝えているかが103本の出品作を見ていく中で次第に気になってきた点でした。

「デイ・ドリーム」
 山形県で制作された佐藤安稀監督、3作出品していただいたうちの1本です。3作ともそれぞれに素晴らしいのですが、この作品の雪景色の美しさは鮮烈でした。地元鶴岡への深い愛情が感じられる作品でした。
 どちらかといえば「アート系」「ヨーロッパ系」の作品なので、エンターテイメント系の作品を見慣れている人には眠くなる要素もあるのですが、感覚を大事にしたストーリー展開、詩情あふれる雰囲気に魅了されました。
 作り手は意識していないかもしれませんが、2014年カンヌ映画祭パルム・ドール賞を受賞したヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督「雪の轍」や、根強いファンをもつ佐々木昭一郎脚本・演出のドラマ「四季・ユートピアノ」に通底するものがあると思います。
 若い女性と子どもたちの間に交わされる会話「私、この町で生まれたの」「私たちと一緒だね」は、全出品作品中、最も心に残るものでした。

「スリッパと真夏の月」
 全出品作品中、最もシナリオが面白く、小ネタも効いている作品でした。個人的に、主人公が着ているTシャツの柄、パラレルワールドに行き来する時のくすぐったそうにする演出がツボでした。
 美しい女性が美しく撮られている作品はたくさんあるのですが、この作品はそういった方向ではなく、個性的、かつ魅力的な姉妹が印象に残りました。昨年の準グランプリ受賞作「さよならファンタジー」同様、キャスティングのおもしろさ、小道具の作り込みはさすがでした。
 音量調整が今ひとつ、画面に余計なものが写っているところもあるので、そこは直した方がいいと思います。

「弱者よ踊れ」
 極めて個人的な作品でありながら、多くの人に個人的に好きと言ってもらえる作品ではないかと思います。本業は俳優の監督さんらしいのですが、撮影、光の使い方、構図など素晴らしく、技術的にレベルの高い作品でした。
 岡山県の、相当田舎と思われるロケーションと踊り続ける若者とのギャップに力を感じました。字幕、ナレーションで説明しすぎな印象はあるのですが、この時、この状況でしか撮れない、強い衝動に揺さぶられる1本でした。
「ディストラクションベイビーズという映画を見ました。若い才能が戦っていました。悔しかったです」そんなストレートな賞賛、嫉妬心をいつまでも持ち続けてもらいたいです。

「サヨナラ、いっさい」
 監督の1歳の息子さんを主演とした、ある意味ホームムービーといってもいい作品でしたが、映像が美しく、編集も小気味よく、繰り返し見たくなる1本でした。
 ドラマ部分の展開がもう少し欲しい感じもあったのですが、すべてのものに「バイバイ」する、子どもの感性に圧倒されました。日々出会うすべてのものにサヨナラする、私たちはそういうふうに生きている、と気づかされました。
 昨年の準グランプリ作品「多摩川サンセット」と同じく、渡邉高章監督は、どんな分野の作品であっても、見る人に何かを気づかせてくれる魅力を持った作家だと思います。
 仕事、家庭、育児など、自主制作映画を続けていく中での様々なハードルをどう乗り越えるか、考えさせられる作品でもありました。

「瓜二つ」
 ほぼセリフがなく、映像だけで想像させるストイックな作品でした。
 カメラポジションにも工夫があり、美術も農業倉庫そのままのようでいて、微妙に計算されている。状況を説明せず淡々と見せていく手腕がすごいです。
 観客は、最後のセリフに昇華される、あるいは、置き去りにされるのですが、
戦争の苦い記憶をそのままに伝えるのではない。しかし、それは常にある。そして、生のじゃがいもを盗んで食わざるを得ない、そういう貧困あるいは精神状態にある現代の若者とぶつけることによって、浮き彫りにされる。何をどう伝えるかという点において、最も優れた作品と思いました。
 撮影クルーを最小限にとどめ、地方で地道に制作する選択も好感が持てます。日本映画界に何かを残してほしい監督です。

「春を殺して」
 いじめや毒ガスづくりをモチーフとした、決して見やすいタイプの作品ではないのですが、何となく気にかかる不思議な1本でした。
 出品作品を見ていくと、美しい風景などロングショットを多用している作品が多く、圧倒的な映像美ではあるのですが、ドラマがそれに負けている印象がありました。また最近の邦画の若手監督の作品は、制作的な事情もあるのでしょうが、長回しが多いものばかりという気がします。この作品は違いました。クローズアップを多用してカット割りで表現しようとする。例えば、いじめられている主人公の机に花が置かれている状況と、それに気づきながら何もしない担任との空気感を目のクローズアップの切り返しで表現する。秀逸でした。
 すべてのカット割りがこなれているわけではないのですが、地道にカットを割って表現しようとするあたり、作品に向かおうとする姿勢はほかの監督とは違うように感じます。いじめっ子たちの演技、演出もうまい。現実離れした美しい風景、洗練されたキャストで作品を盛ろうとする出品作が多い中、ロケ地、キャスティングにも無理がなく、リアリティがありました。
 悲惨な、腐った状況でありながら、どこかに行き着こうとする。好き嫌いはあるかと思いますが、心引かれるストーリーでした。

「ヤクダケどんど」
 2014年度審査員特別賞受賞、同監督の「萬重村の王様」と同じく、村の伝説にまつわるストーリー。今回は五泉地域を中心に撮影されています。
 フェイクドキュメンタリーのような手法で見る人の興味を引きつける手腕は変わらず、役者陣もまた一癖二癖あり、今回は特に読めない展開に驚かされました。イラストを巧みに使った紙芝居のような語り方など、飽きさせない工夫に満ち満ちています。
 住み慣れた地域に違った印象を与える、多くの人に楽しんでもらいたい作品です。

「千里 翔べ」
 2014年審査員特別賞受賞、同監督の「上にまいります」と同じく、撮影、演出、演技、編集の技術の高さは素晴らしいものでした。特に、色のセンスが美しく、印象に残っています。
 内容に関してなのですが、いいことはいい、悪いことは悪い、いい人はいい人、悪い人は悪い人、という勧善懲悪がはっきりしていて、もう少し複雑な部分、深みがあるとリアリティを感じられる気がします。
 脳性まひの少年の、映画俳優になりたいという夢を叶えるために映画を制作する。監督の映画への向き合い方は非常にクリアで、なぜ映画を作るのかという多くの作り手の問いかけへのヒントの一つとなるものであると思います。

「君のとなりで」
 全出品作品中、最も心に残った俳優は、この作品のヒロインでした。ほぼ全編登山服という地味な出で立ちながら、凛とした表情、身のこなしの美しさが目に焼きついています。
 30分以内という制約からか、出演者がほぼ二人という作品はほかにも多くあったのですが、室内のみで撮影されている作品より、登山をしている分、やりきった感じ、爽やかさがありました。
「諦めない」というテーマ、ラブストーリーとしても稀に見る直球勝負なのですが、シンプルな伝わりやすさ、清々しさがこの作品の魅力だと思います。

「捨て看板娘」
 1カット1カットの映像の美しさ、丁寧さが伝わってくる作品でした。主人公も魅力的で、キャスティング、ロケハンの技術、ねばりが感じられました。
「捨て看板屋」という設定は珍しく、おもしろいなと思ったのですが、ストーリー展開がいかにも定型的で、斬新さに欠けるという印象でした。個人的には個性やインパクトが感じられない内容でしたが、多くの人にはわかりやすく、受け入れられやすい作りで、それも大事なことと思います。
 細かいことですが、DVDの書き出しがうまくいっておらず、若干の映像の乱れがあり、エンドジャンプ停止の処理がされていないことも残念でした。

「田吾作どんのいる村」
 全出品作の撮影に注目すると、被写界深度を意識した画づくりが多く見られ、一見それがいいようにも見えるのですが、この作品の撮影にはそれをガツンと打ち崩す力強さがありました。構図、パンが美しく、重厚なカメラワーク。映画とはそういうものだということを教えられました。
 時代物であり、衣装、美術、ロケハン、その時代を感じさせる演技を作っていくのは相当に大変だったかと思います。
 状況や心情をナレーションで説明してしまっているのは少し残念ですが、老若男女誰にも受け入れられやすい仕上がりでした。

 個人的には、「君と違う空は見たくない」「歩く」「まれびと」「感謝」「星」「マイルドヤンキー」「よいお年を」「静かの海」も気になる作品でした。ある意味では、「落研冒険支部」が最もよくできた作品だったかと思います。「とけいのはなし」は一番の労作、「外テ物」も強い個性を放っていました。
 ご応募、本当にありがとうございました。

第18回長岡インディーズムービーコンペテション

審査員総評 ナシモトタオ

今回正直、最終審査に上がって来た作品はどれも物足りなかったと言うのが正直な感想だ。ある種の面白さや、目を引く箇所はどの作品にもある、確かにあるのだが決め手が無い。作品の中で言われる事が台詞とおぼしき単語の羅列としてだけ提示されて、もう少しで何かを予見させたり、考えさせたり、想起させる事を拒むように時間が進んで行く。それは、もしかすると自分だけの意見を表明する事を良しとする事への恐怖(他人の理解を得れないかも知れないという考え)を回避するといった、とても「今」な感覚なのかも知れない。選ばれた二十歳から五十八歳の監督全てがその中でそつなく作っているように思う。しかし、そのそつのなさにはこれ迄の映像・映画が育んで来た表現の文脈は存在してなかった。たしかに、何か「っぽさ」はあるのだが、その「っぽさ」が映像言語になる事はなかった。しかし、幾つかの作品には、火熾しの着火の前のくすぶりを感じるのだ。そのことから、来年への更なる期待を込めて、グランプリ該当者無し、準グランプリ2作品選出という選択となった。

準グランプリ
「デイ・ドリーム」
恋人の不在。それとどのように向き合うかが、主人公の視点で描かれている。冒頭を含め時折、居なくなった恋人が描かれるのだが、それが、どうしていなくなったかは提示されない。いや、されないわけではなく、居なくなったものは、残された者にとって物語や詩になってくのではないかと感じさせる。荒削りではあるが、その荒さこそが、自身が伝えたい気持ち(気分?)は映像には映らないかも知れないと疑う作者の姿そのものだ。これまでも、幾多の作家によって同じ様な事は描かれて来た。だがその既視感を持ち出す声になど負けずに自身の伝えたい気持ちと向き合い続けて欲しい。

「スリッパと真夏の月」
木場ワールドの一つの到達点である。と感じた。母の絶対的な不在。日常を司るそれが描かれる事が無い世界で、現実の父が遺したモノを別な父と遊ぶ。そんな永遠の夏休みの様な時間を過ごす姉妹を、観る者は自分の中の「もし」と重ねるのかも知れない。惜しむらくは、その嘘をつく為のリアルの構築が、時折ほころびを見せている。それを、日本の自主映画的チープな味と逃げてはいけない。この到達を匠な世界観へ押し上げる事を切に望む。

監督賞
「瓜二つ」
問題はラストの台詞なのだ。それ迄の世界は様々な事を想起させる。ジャガイモを齧る音も、納屋に差し込む光も、老人のあの行動も。しかし、ラストの台詞なのだ。あの台詞こそが、今の山川監督の全てなのだと思うが、そこと、徹底的に対峙し戦う作品を私は観たい。

審査員特別賞
「弱者よ踊れ」
自身の想いを音楽的な構造で見せていて、今後どのような作風へと作者自身がいくのか興味深い。

「サヨナラ、いっさい」
乳幼児の何気ない声を言葉という音源として扱いながらも、そこには不在の父(夫)と母(妻)の関係性を作者側の目線で(一応赤ちゃんとしてだが)上手く語っている。

上記の二作品は意見が分かれた。どちらの作品の主人公も、その存在自体が本当に訴えかける事は無く、乳幼児の声や、踊る行為に変えてみせる。その他者性の無さは、それこそが現代の人間関係のありようにも思える。どこまでも、届いて来るのは主人公の声ではなく作者の言葉、声では無く言葉であり、映像による言語でもない。そのストレートさは賛否が分かれるところだが、今と云う時代に望まれているのではないかと思う。しかし、『弱者よ踊れ』の犬を抱きしめる行為や、『サヨナラ、いっさい』の一人の赤ちゃんを見続ける事で起る赤ちゃんのまなざしの存在感に、総評でも触れた「くすぶり」を感じずにはいられない。

審査員総評 ビューラ・ヨールグ

映像の表現と内容の多様性を感じました。各地方の魅力や作家の特性はよく表現され
ました。しかしながら、映画的な演出やストリーテリングに関して不満なところもあ
りました。もっとテキストから考える,もしくは字幕などで説明するよりも絵の力を
信じて表現を追求して欲しい。内容から場面と音のデザインまで視聴者をもっとびっ
くりさせてください。

「スリッパと真夏の月」
最初のホームムービーシーンから最後のオチまで楽しんで見させていただきました。
監督の物語を語る気持ちとその喜びがよく伝わっています。少し変わっている発明家
の父親と娘たち姉妹という家族設定からSFのストーリーを展開し、いくつかの思わぬ
展開で最後まで少しもダレると言う感じは一度もありません。その楽しいストーリーを
上手く演出するためにキャラクターデザインとその演技や会話からカメラワークと編
集まで素晴らしい映画クラフトで製作した作品です。音を含めて、小道具やモンス
ターの表現、格闘シーンなどを良い意味でちょっとチープな感じで表現されていて全
体的に作家のユーモアと遊び心がよく伝わっています。

「デイ・ドリーム」
今年度の出品の中、視覚的に最も面白い作品です:雪国の非常に魅力ある雪の演出を
含めて、オープニングショットも最後の場面も印象的な表現です。ストーリーあるい
は内容が把握できるように各ショットは十分工夫されて制作されました。主人公の悩
みなどの心理的な状態に合わせて絵とダイアログはもちろん、特に音で綺麗にサポート
された編集のリズムは上手くできました。「デイ・ドリーム」と言う題名は少しネタ
バレだと思っています。

「瓜二つ」
一つのロケーションに限られ、ゆっくりの展開でほとんどビジュアルだけで写し出し
た映像作品です。最後のセリフまで映像の全体的な内容を含めて何が行われているか
全く理解できなくて視聴者を考えさせます。それでも(もしくはだからこそ)緊張感
が高くなり「長い」という感じが一瞬もありません、テンションは最後まで持ってい
ます。特に効果音の音響表現も非常に丁寧に制作されました。

「ヤクダケどんど」
先ず、「きのこ」とその生物学と特に関係する神話が個人的に興味深いです。この不
思議な植物を使って特性があるストーリーを発展し、社会的に行われる古めかしい儀
式をテーマとした作品を画きました。このような昔からの儀式への疑問と儀式による利
益集団とそれに対比した被害者をテーマにしたことを最も評価します。
その内容を伝えるためにホームムービーっぽいフェイクドキュメンタリーを使い、
ジャンルらしくインタビューなどで儀式の当日まで行われることやその背景情報を説
明するために最後までテンションが下がらない様に色々なクリエイティブな方法を使
用されています。カメラワーク、カラーコレクションと特に低い質の音も選んだジャン
ルに合わせて演出されますので、問題ありません。

学生審査員総評

座C!nema賞 「春を殺して」

学校での立場、いじめ、リストカット、未熟で率直な殺人欲求など、前面に押し出さ
れた思春期特有の痛々しさに傷心しながらも学生の多くがこの作品に票を入れた。
関わり方を表すような教室内での机の位置など細やかな画面作りも目立っていた。
誰しもが学生時代に彼女たちのような経験をした訳ではないが成長途中のあの頃に感
じた痛みを、思い出せるのではないだろうか。