*

最終審査評

   

ゴダールとともに、映画もまた安楽死したのだと思う。そしてまた、新しい時代。
151作品もの応募があったことは本当にありがたいことだ。どの作品からも強い力と意思が感じられた。何のしがらみもなく、ただひたすら作品と向き合う。今年もまた、熱く、幸せな夏だった。
AFTERLIFE(準グランプリ)
登場人物の各シーンを断片的に見せ、その人の生活、人生を描き出す手法。緻密な構成。なかなか書ける脚本ではない。さらに的を得たキャスティング、演技演出力。結婚もせず地方に生き続ける男達のリアル。ラスト近く、えのやんとけんぼうのダイアローグによる長回しは、全応募作品中、最も力のある圧倒的なシーンだった。この監督であれば新しい映画の断面を切り出してくれると信じる。
わたしは生きていける(審査員特別賞)
映画とは何か、映画を作るとはどういうことか、問題を提起する刺激的な作品。フィクションとノンフィクションのはざま、素と演技とのはざまを巧みに行き来する。映画撮影のシーンであっても綿密なカット割りがなされており、長回しの応募作品が多い中、地道な作品制作が光って見えた。無断で知人の家の前で撮影し、見つかってもひるまず、シナリオを変更し即興で新しいシーンを作ってしまう鮮やかさ。サクッと終わるセンスのよさ。二人の女性が何気にチャーミングだったことが心に残る。
一途(俳優賞)
部屋で一人、想いを語る凪郎のシーンがすごい。どんなうまい役者にも出せない演技の極みを見た。相当強引で、あり得ない展開(すべては凪郎の妄想?)だが、そこにリアリティを与える二人の演技が素晴らしい。この脚本、演出、燈子の演技力があってこそ、ギリギリの線で輝く凪郎の演技と思う。常識では何も説明できない。認知症をモチーフとした他の作品とは一線を画す緊迫感に満ちていた。
ぽっかりがらんどう(グランプリ)
緑と茶色の色彩感覚が美しい。シチュエーションコメディを得意とする監督の演出の幅広さを伺わせた。介護される老婆は真に美しい人だと思う。部屋の中のテント、サックスの音色、シュールな感じがいい。ストーリー上よくわからないところがあり、この作品が向かうところが何なのかもまたよく分からないがそれがまたいいのかもしれない。
幽かな光(グランプリ)
数回見たが、その都度見応えがある。リアルに高専生なのだが、それなりに幽霊や地縛霊に見える。何より、主人公二人のキャスティングに成功している。二人の顔、語り口が心に残る。好きになってしまう。暴力、エロ、恋愛なしでよくここまでおもしろい作品を作り上げたと思う。
たまには蜂蜜を(俳優賞)
ワンカット作品でありながら、自然体で迷いなくカメラに向かう兄の演技力がすさまじかった。非常に難しい撮影も一流のセンスと技術でこなしている。内容的にはそれほど深みはないかもしれない。誰にでも分かりやすいストーリーをさりげない演技力技術力でダイナミックに描き出している。
甘露(監督賞)
甘露→不老不死というテーマは面白いと思う。駄菓子屋というロケ地も趣深い。「たまには蜂蜜を」と内容、手法はかぶるが、それほど、ワンカット、演技力を生かしきれていないように感じた。いなくなった弟は何だったのか、おじいちゃんだったのか。不老不死ということか。よくわからなさ具合も半端で、それがいいというところまでいかなかった。
通夜の前に(観客賞)
演技演出は非常に丁寧。レベルは高い。しかし、熱演が続き、疲れてしまった。コメディなので仕方がないのかもしれないが、死の重みが感じられない。
HEAVEN(奨励賞)
よく見ると、撮影、整音、今ひとつなところもある。二人の状況が分からず、なかなか入り込めない人も多いかもしれない。しかし、強いイメージに突き動かされ、なんとか技術も追いつこうとしている。ロケハン、制作、演技がんばっている。映画として成立させようとする強い意志を感じる。
好きのかたち(奨励賞)
他のどの作品より、映画を作りたいという思いがストレートに伝わってきた。イマジナリーラインは超えまくりだし、編集ソフトの表示が出続けているし、撮影、録音においても課題は多いが、主人公二人の感情を細やかに描き、ほかの登場人物のシーンも大切にし、何より作品に仕上がるまで撮りきっている。同じ世代による「幽かな光」とは対照的に、個人的に自分達で作りたいという強い思いにつき動かされた。
第25回長岡インディーズムービーコンペティシ
審査委員長 井上朗子
最終審査作品評
今回初参加で、新潟で仲間たちと自主短編作品を毎月地道に作っています。映画作りがどれ程労力が必要で監督が想いを込めているか知っているので、勝手ながら戦友たちと向き合うような気持ちで鑑賞させていただきました。151作品一つ一つが人生の貴重な財産となりました。応募された皆さま心より感謝申し上げます!
審査員
宇佐美基(市民団体にいがた映画塾代表、NICEDREAMnet主宰)
「幽かな光」(グランプリ)
はじめはありがちな設定と思いきやとても細かい演出やセリフが行き届いていて、その積み重ねにやられました。役者の皆さんの瑞々しい演技、鳥取の風景もノスタルジーを誘い素晴らしかったです。
「ぽっかりがらんどう」(グランプリ)
とても丁寧・誠実な作りで全体的なクオリティーがとても高かったです。カリフラワーの様な大木はじめ心に残る画も多く、何よりサックスが耳から離れません。
「AFTERLIFE」(準グランプリ)
色々と地方に住む中年当事者としてもすっかり引き込まれました。森の中や夜の映像などとても美しく役者さんの面構え・演技も半端なく、このまま2時間でも観たくなる作品でした。(イーストウッドのミスティック・リバーを思い出しました!)
「わたしは生きていける 」(審査員特別賞)
同じ自主映画を作ってる身として、あるある感が沁みました。ただそれ以上にとにかく画作りや編集の切れ味が鋭くて監督の運動神経の高さに痺れました。(一見そう感じさせないのが更に)
「通夜のまえに」(観客賞)
応募作品で一番笑った作品です。短編なのにたくさんの魅力的なキャラクターを描きまとめる手腕と役者の皆さまに拍手です。
「甘露」(監督賞)
ワンカット&ショットの見本のような作品でした。2人の会話は横からのアオリショットがやはり画になりますね。ラストはありそうでなかったような?甘露が気になり検索してしまいました。
「一途 」(俳優賞)
シンプルですがカット一つ一つ練られて、ただならぬ緊張感がありました。あれっ?どこまでが…と色んな読み込みができるのも見事でした。
「たまには蜂蜜を。」(俳優賞)
ひりひりする、やっぱり若さと無垢さ。アートに身を投じる痛みと美しさが描かれていました。監督の想いのある作品は強いです。
「Heaven」(奨励賞)
映っている画がとにかく美しくて特に心に残りました。新潟の見慣れた風景をこんな別世界のように撮ることができるんだと大変刺激を受けました。
「好きのかたち」(奨励賞)
性の多様性という自主映画では近年とりわけ多くあるモチーフをこんなに直球に描き心を揺さぶることに驚きました。前のめりで撮らずにはいられないという想いが作品にあふれています。主演の子の演技も素晴らしかったです!
審査員
永井美津子(元にいがた国際映画祭副実行委員長)
「幽かな光」(グランプリ)
文句のつけようがなく驚くほどほぼ完璧。暗室の地縛霊の子に会いたい。
「ぽっかりがらんどう」(グランプリ)
どういう絵が欲しいか明確な正解を持って撮られているのがわかる。スクリーンで見るべき。
「通夜の前に」(観客賞)
不穏なブラックコメディーだとしたら、真剣にリアルであればあるほど笑えるはずで、
そこはとことんリアルを通して欲しかった。たとえば葬儀屋さんはリアルに葬儀屋さんに見える人にするとか。もっと高い笑いの到達点を目指せる。
「わたしは生きていける」(審査員特別賞)
全員の目が笑っているので、芝居とそうでないところの区別がつけにくかったのが少し残念。タイトルにこめられた思いはしっかり伝わっています
「AFTERLIFE」(準グランプリ)
自責の念とその逡巡という、絵にして見せるのがとても難しいものをスリリングに表現している。独特のタッチの映像も効果的。
「たまには蜂蜜を。」(俳優賞)
どうリハーサルしてこれが可能になったのだろう、という圧巻のワンカット。
「甘露」(監督賞)
なくなってしまう場所を映画にすればそこに永遠に存在していてくれる、という発想が素敵です。
「一途」(俳優賞)
今の老人世代にとっての結婚は「恋愛」というものの最終到達点ではなかったし、(もちろんそういう人もいたでしょうけど)愛情の一途さというより、単に自分の面倒が見られなくなったことへの不満や不便さが顕在化する方が、よりいろんなやり切れなさが残るのではと思います。問題の焦点をファンタジーでぼやかしているようで、想像力の限界を感じてしまいます。
審査員
関矢茂信(コミュニティシネマ長岡)
「幽かな光」(グランプリ)
30分すべてのカット、シーンが完璧。ラスト泣きました。
「ぽっかりがらんどう」(グランプリ)
渡辺直也さん阪本 竜太さんを擁して数々の映画賞を席捲してきた鹿野洋平監督のアート作品である。スクリーンで最も観たい作品でした。
「AFTERLIFE」(準グランプリ)
非常に力強い作品でぐいぐいと話に引き寄せられましたがラストはいただけなかった。映画のラストは1つがいい。
「わたしは生きていける 」(審査員特別賞)
リアル感が良かったと思います。次回作も期待です。
「通夜のまえに」(観客賞)
面白かった。高校生役の子が家の娘に似ていて微笑ましかったです。
「甘露」(監督賞)
これも面白かった。何かよくわからないところが特に良かった。テリー・ギリアム監督が「あなたの映画はよくわからないが」と記者から質問された答えが「人生はわからないことだらけだよ。」と言うのが好きで心に残っているがまさにそんな作品です。
「一途 」(俳優賞)
2人の俳優が見事に演じている。8畳間の「シェイプ・オブ・ウォーター」である。
「たまには蜂蜜を。」(俳優賞)
これも兄弟もの!監督が兄を演じている!短い時間の中に親子3人の感情が濃密に描かれていた。3人の俳優が作り上げた映画である。
「Heaven」(奨励賞)
意欲を感じた!もうちょっとだった。
「好きのかたち」(奨励賞)
すべてが下手くそな作品であるがテーマに真正面から挑んだところに共感した。映画は観客の心を動かせれば良いのだ。良かったです。
151作品全てが映画でした!できればすべてを上映したいが時間の制約もありこの選択となりました。ご応募して下さった皆様本当にありがとうございました。もしご都合がつくようでしたらどうぞ映画祭にお越しください。
1人の画像のようです
インサイトと広告を見る
投稿を宣伝
いいね!

コメントする
シェア

 - 未分類